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神戸地方裁判所 平成4年(ワ)877号 判決

原告

千田松一こと千鍾龍

ほか一名

被告

岸田昌之

主文

一  被告は、原告千田松一こと千鍾龍に対し、金一八二万四〇〇〇円、原告山中春夫こと李春夫に対し、金二一三万八五八四円及びこれらに対する平成元年一二月一八日から支払いずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その三を原告らの、その七を被告の各負担とする。

四  この判決は、原告らの勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

以下、「原告千田松一こと千鍾龍」を「原告千」と、「原告山中春夫こと李春夫」を「原告李」と、略称する。

第一請求

被告は、原告千に対し、金二二一万三〇〇〇円、原告李に対し、金三八四万二五六〇円及びこれらに対する平成元年一二月一八日から支払いずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、軽四貨物自動車に乗車中普通乗用自動車に追突された者らが、同追突車両の保有者兼運転者に対して、同追突事故により負傷したとして、自賠法三条並びに民法七〇九条に基づき損害賠償を請求した事件である。

一  争いのない事実

別紙事故目録記載の交通事故(以下、本件事故という。)の発生。

二  争点

1  被告の本件責任原因の存否

(一) 原告らの主張

(1) 被告は、本件事故当時、被告車を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものであるから、自倍法三条所定の責任を負う。

(2) 被告は、自動車を運転する際には、前方を注視して安全な走行に努めなければならないという運転者の義務があるにもかかわらず、時速四五ないし五〇キロメートルの速度で漫然走行し、被告車の前方に停車中の原告車の発見に遅れた過失によつて、被告車を原告車に追突させ、本件事故を惹起した。

よつて、被告は、民法七〇九条所定の責任を負う。

(二) 被告の主張

原告らの主張事実は否認する。

2  原告らの本件受傷の具体的内容及びその治療経過

(一) 原告らの主張

(1) 原告千について

内容 頸部捻挫、右尺骨骨頭骨折

入院 平成元年一二月一九日から同月二八日まで東神戸病院に入院(一〇日間)

通院 平成元年一二月一九日から平成二年四月二一日まで東神戸診療所に通院(実治療日数五七日)

(2) 原告李について

内容 頸部、腰部捻挫

入院 平成元年一二月一九日から同月二八日まで東神戸病院に入院(一〇日間)

通院 平成元年一二月一九日から平成二年一二月二八日まで東神戸診療所に通院(実治療日数一七〇日)

(二) 被告の主張

本件事故は軽微な物損事故であり、本件事故によつて、原告らに同人ら主張の入通院を要するような傷害が発生することはあり得ない。

原告千については、過去に頸椎捻挫の受傷歴があり、本件症状は、陳旧性の症状の再発と考えられ、原告李についても、過去二度の頸部等への受傷歴があり、本件症状は、その再発と考えることができるし、また、同人の加齢による症状とも考えられる。

3  原告らの本件損害の具体的内容(弁護士費用を含む)

第三争点に対する判断

一  被告の本件責任原因の存否

1  証拠(甲一、乙一の1、2、原告千本人、同李本人、弁論の全趣旨。)によると、次の各事実が認められる。

(一) 本件事故現場の存する道路(以下、本件道路という。)は、南方(唐櫃・六甲山方面)から北方(三田方面)に通じる県道〔車道は中央線(黄色実線)により二車線に区分され、東側車道の幅員約三・一メートル、西側車道の幅員約三・二メートル。〕で、直線上の平坦なアスファルト舗装路であり、本件事故現場は、本件道路中の唐櫃トンネル内である。

本件事故現場付近の交通規制は、制限速度時速五〇キロメートル、駐車禁止、追越しのための右側部分はみだし禁止である。

右事故現場付近は、ナトリウム灯が点灯しており、明るい状態である。

本件道路における前後の見通しは、原告車及び被告車の運転者いずれにとつても、良好である。なお、本件事故当時、路面は乾燥していた。

(二) 原告千は、本件事故直前、原告車を時速約五〇ないし六〇キロメートルの速度で運転し、本件道路を南方から北方に向け走行していたが、本件事故現場において、自車前方が渋滞中のため、停車していた。

被告は、右事故当時、被告車を時速約四〇キロメートルの速度で運転し、本件道路を原告車の後方から同車両と同一方向に向け進行していた。

ところが、被告車が本件事故現場の南方約三六・四メートルの地点付近に至つた時、被告は、自車前方約一二・一メートルの地点付近に落下している材木を発見し、これが対向車線を走行してきた車両によつて自車走行車線側に転がつてきたのを認めた。

そこで、同人は、自車のハンドルを左に切つてこれを回避したが、同人において、その間、自車前方の注視を怠り、同事故現場南方約一七・二メートルの地点付近で、同事故現場に停車している原告車を発見し、直ちに自車のハンドルを左に切ると共に急ブレーキを掛けたものの間に合わず、被告車右前部(左右は、関係車両の運転席に着席した姿勢を基準とする。以下同じ。)を原告車左後部に衝突させ、本件事故が発生した。

原告車は、右衝突によつて、約五・二メートル前進し、本件道路中央線上に押し出された。

2  当事者間に争いのない前記事実及び右認定事実を総合すると、本件事故は、被告の過失、即ち、同人には、被告車を走行させる際、交通状況に十分注意し、かつ、自車先行車両等の速度並びに道路の状況に応じて、できる限り安全な速度と方法で被告車を進行させるべき注意義務があつたにもかかわらず、同注意義務を怠り、自車前方の安全を十分に確認せずに同車両を走行させ、その結果、自車前方に停車していた原告車の発見が遅れたという過失により、本件事故を惹起したと認めるのが相当である。

よつて、被告には、民法七〇九条に則り、原告らが本件事故によつて被つた後記損害を賠償する責任がある。

3  ところで、被告は、本件事故は、極めて軽微な物損事故に過ぎない旨主張する。

しかし、原告車が本件衝突により本件道路中央線上に押し出されたこと、その距離等は、前記認定のとおりであるが、加えて、前記証拠によれば、被告車が普通乗用自動車(長さ四・三三メートル、幅一・六四メートル、高さ一・九二メートル、定員九名。)であり、他方、原告車が普通貨物自動車(長さ三・一九メートル、幅一・三九メートル、高さ一・八一メートル、定員二(四)名。)であること、原告車の本件損傷が、左後部凹損であり、後部ドアの閉扉不能、テール損傷に至つていること、原告らは、後記認定のとおり本件事故当時その身体にかなりの衝撃を受けたことが認められ、右認定各事実に前記認定にかかる被告車及び原告車の進行状況を合わせ考えると、本件事故の程度は、極めて軽微な物損事故に過ぎないとは到底いえず、したがつて、被告の前記主張は、理由がなく採用できない。

4  原告らは、右認定説示にかかる被告の本件責任の原因としての過失(民法七〇九条所定)以外に、本件責任原因として運行供用者責任(自倍法三条所定)の存在をも主張している。

しかしながら、原告らの右主張は、その主張全体の趣旨からすれば、被告の過失の存在(民法七〇九条所定)と選択的に主張していると解されるところ、被告の同過失の存在が肯認されることは前記認定のとおりであるから、同認定の本件責任原因以外に原告ら主張の右運行供用者責任の存否まで判断する必要はないというべきである。

二  原告らの本件受傷の具体的内容及びその治療経過

1  原告千関係

証拠(甲二、九、一〇、一二、乙三ないし五、原告千本人、弁論の全趣旨)によれば、次の各事実が認められる。

(一) 本件受傷の具体的内容

頭部打撲、頸椎捻挫。

(二) 本件治療の経過

(1) 東神戸病院

平成元年一二月一九日から同月二八日まで入院(一〇日間)。

(2) 東神戸診療所

平成元年一二月一九日から平成二年四月二一日まで通院(実治療日数五七日)。

2  原告李関係

証拠(甲三、四、一三ないし一五、乙六、七、原告李本人、弁論の全趣旨)によれば、次の各事実が認められる。

(一) 本件受傷の具体的内容

頸部捻挫。

(二) 本件治療の経過

(1) 東神戸病院

平成元年一二月一九日から同月二八日まで入院(一〇日間)。

(2) 東神戸診療所

平成元年一二月一九日から平成二年一二月二八日まで通院(実治療日数一七〇日)。

3  原告らの本件受傷の具体的内容及びその治療経過と本件事故との間の相当因果関係の存否

(一) 原告らの本件受傷の具体的内容と本件事故との間の相当因果関係の存否

(1) 本件事故の具体的内容、とりわけ、本件事故の程度については、前記認定のとおりである。

(2) 一方、前記原告らの本件受傷の具体的内容及びその治療経過の認定に用いた前掲各証拠によると、次の各事実が認められる。

(イ) 原告千について

原告千は、本件事故当時、原告車の運転席において、同車両ハンドルに両手を載せて同ハンドルに頭部をもたれ掛けるような状態にあつたところ、同人は、同事故により、運転席横ドアと窓を開けるハンドルとの間に右肘を挟み、また、本件事故の衝撃によつて、一時的に気を失つた。

原告千は、その後、自分で原告車を運転して恒生病院へ行き、用心するよう言われ、翌朝、吐き気、腕の痛み等の症状があつたので、東神戸診療所で診察を受け、頸部捻挫、右尺骨骨頭骨折の疑いがあり、安静の要ありとの診断を受け、東神戸病院に入院することになつた。同人には、同入院時、頭痛、吐き気はあつたが、X線検査では異常なく、入院中の治療は、湿布、リハビリ、右肘固定が中心であつた。

同人の同病院退院時における傷病名は、頭部打撲、頸椎捻挫であつた。

同人は、右退院後、東神戸診療所に通院し、湿布、鎮痛剤の併用による治療を継続した。

(ロ) 原告李について

原告李は、本件事故当時、原告車の運転席後部座席に浅く座り、足を前に出して、くつろいだ姿勢でいたところ、同人は、同事故の衝撃により、急に、その顔面を同運転席後部で打つた。

同人は、その後、原告車で恒生病院へ行き、用心するよう言われ、その後、だるさ、気持ちの悪さ等があつたので、翌朝、東神戸診療所で診察を受け、頸部捻挫、腰部捻挫で安静の要ありとの診断を受け、東神戸病院に入院することになつた。同人の同入院時におけるX線検査では異常なく、ただ、同人の入院時の主訴として、頸部痛、腰痛があり、これに対する入院中の治療は、投薬、湿布が中心であつた。

同人の同病院退院時における傷病名は、頸椎捻挫であつた。

同人は、右退院後、東神戸診療所に通院し、投薬、湿布、牽引による治療を継続した。

(3) 右認定各事実を総合すると、原告らの前記認定にかかる本件受傷内容と本件事故との間には相当因果関係の存在を認めるのが相当である。

右認定説示に反する被告の主張は、理由がなく採用できない。

なお、鑑定書(乙二)は、これが真正に成立したものであることを認めるに足りる証拠がないから、形式的証拠力がなく、右認定説示を妨げるに至らない。

(二) 本件治療の経過と本件事故との間の相当因果関係の存否

(1) 原告千の本件受傷の具体的内容とその治療経過は、前記認定のとおりであるところ、同認定にかかる同受傷の具体的内容からすると、その治療経過は、それに相応する内容と認められ、したがつて、同治療経過と本件事故との間に相当因果関係の存在は、これを肯認するのが相当である。

(2) 原告李の本件受傷の具体的内容とその治療経過は、前記認定のとおりである。

しかして、証拠(甲一四)によると、同人の平成二年一月一日から同年四月三〇日までの間における東神戸診療所への通院治療(実治療日数。以下同じ。)状況は、同年一月中二二日、二月中二三日、三月中二一日、四月中一七日であることが認められるところ、同通院治療は、前記認定にかかる同人の本件受傷の具体的内容に照らすと、過剰といわざるを得ない。

右認定説示に基づくと、原告李の前記認定にかかる治療期間中本件事故と相当因果関係がある通院治療は、四二日間の治療分と認めるのが相当である。

よつて、原告李の本件事故と相当因果関係に立つ通院治療(以下、本件相当通院治療という。)は、合計一三〇日と認めるのが相当である。

4  原告らの本件受傷の具体的内容と既往症との関係

(一) 被告において、原告千には過去に頸椎捻挫の受傷歴があり、本件症状は陳旧性症状の再発と考えられ、原告李にも、過去二度の頸部等への受傷歴があり、本件症状は、その再発とも考えられるし、また加齢による症状とも考えられる旨主張している。

(二)(1) 確かに、証拠(乙五)によれば、原告千には、約一〇年前に頸部捻挫を受傷したことがあり、本件受傷が原因となり陳旧性の症状再発の可能性があることが認められる。

(2) しかしながら、右認定以上に、原告千の本件症状が右陳旧性の症状再発であることを肯認させるに足りる的確な証拠、特に医学的証拠はない。

よつて、被告の右主張は、右説示の点で理由がなく採用できない。

(三)(1) 証拠(乙七、九)によれば、原告李は、昭和六二年九月外外傷後発症した頸部捻挫により、神戸労災病院において平成元年七月一〇日から治療開始し同年一一月七日症状消失し、治症と認められ治療終了したこと、医学上本件受傷が古い症状を誘発すると思われることが認められる。

(2)(イ) 右認定事実と当事者間に争いがない、本件事故日が平成元年一二月一八日であること及び前記認定にかかる、同人の本件受傷の具体的内容を総合すると、原告李の本件受傷による本件症状には、同人の前記認定の既往症(頸部捻挫)の存在も寄与していると認めるのが相当である。

しかして、右認定説示の場合、その損害の全部を加害者である被告に負担させることは、公平を失し、損害の公平な分担を図る損害賠償法の理念に反するというべきであるから、被害者である原告李の損害額を算定するに当たり、民法七二二条二項を類推適用して、右既往症の寄与を斟酌することができると解するのが相当である。

(ロ) そこで、右見地に則し、斟酌する右既往症の寄与の程度を検討するに、前記認定の本件全事実関係に基づくと、全体に対し二〇パーセントと認めるのが相当である。

(ハ) なお、被告は、原告李の本件症状につき同人の加齢による寄与の趣旨の主張をもしているが、同主張事実については、これを肯認するに足りる的確な証拠、特に医学的証拠がない。

よつて、被告の右主張は、右説示の点で理由がなく採用できない。

三  原告らの本件受傷による損害額

1  原告千関係

(一) 入院雑費(請求 金一万三〇〇〇円) 金一万二〇〇〇円

原告千が本件受傷治療のため一〇日間入院したことは、前記認定のとおりであるところ、本件事故と相当因果関係のある損害(以下、本件損害という。)としての入院雑費は、同入院期間中一日当たり金一二〇〇円の割合による合計金一万二〇〇〇円と認める。

(二) 休業損害(請求 金一五〇万円) 金一二四万二〇〇〇円

(1) 原告千の本件治療状況は、前記認定のとおりである。

(2) 証拠(甲五、八の1ないし3、乙八の1、2、原告千本人、弁論の全趣旨。)によると、次の各事実が認められる。

(イ) 原告千は、本件事故当時、同人所有の車両を持ち込み(ガソリン代負担)、村上建設株式会社で就労していたところ、同人の作業内容は、水道工事、土木工事等の技術を要する肉体労働で、一か月平均二三日就労し、一日当たり金二万円(ガソリン代や道路通行費を控除すると、一日当たり平均金一万八〇〇〇円。)を得ていた。

(ロ) 同人は、一定の就労先で継続して労務提供するのではなく、就労先の事業の区切りと共に次々と就労先を変えていたが、同人の収入は、右会社における収入とほぼ同一であつた。

しかも、同人の就労は、季節によつて、その内容、量が異なり、一年を通じての就労状況は、年度替わりの三月末から六月にかけて就労がなく、一二月から一月にかけても、その就労量は通常の半分程度である。

(ハ) 同人の本件治療期間が平成元年一二月一九日から平成二年四月二一日までであることは、前記認定のとおりであるところ、同人の右認定にかかる就労状況からすれば、本件休業損害算定の対象となる期間は、平成元年一二月一九日から平成二年三月三一日までの間の六九日間(一二月及び一月の就労日数は合せて二三日。二月及び三月は各二三日。)となる。

しかして、同人は、右就労可能期間中収入を全く得ることができなかつた。

(ニ) 右認定各事実を総合すると、原告千の本件休業損害は、金一二四万二〇〇〇円となる。

(三) 慰謝料(請求 金五〇万円) 金四〇万円

前記認定の本件全事実関係に基づくと、原告千の本件慰謝料は、金四〇万円と認めるのが相当である。

(四) 原告千の本件損害の合計額 金一六五万四〇〇〇円

(五) 弁護士費用 金一七万円

前記認定の本件全事実関係に基づくと、原告千の本件損害としての弁護士費用は、金一七万円と認めるのが相当である。

(六) 原告千の本件損害の総計額 金一八二万四〇〇〇円

2  原告李関係

(一) 入院雑費(請求 金一万三〇〇〇円) 金一万二〇〇〇円

原告李が本件受傷治療のため一〇日間入院したことは、前記認定のとおりであるところ、本件損害としての入院雑費は、同入院期間中一日当たり金一二〇〇円の割合による合計金一万二〇〇〇円と認める。

(二) 通院交通費(請求 金七万九五六〇円) 金二万八七三〇円

(1) 原告の本件相当治療日数が一三〇日であることは、前記認定のとおりである。

(2) 証拠(甲七、原告李本人、弁論の全趣旨。)によれば、原告李は、本件通院のため一日当たり平均金二二一円を要したことが認められる。

(3) 右認定各事実を総合すると、本件損害としての通院交通費は、金二万八七三〇円となる。

(三) 休業損害(請求 金二二五万円) 金一三九万五〇〇〇円

(1) 原告李の本件治療状況は、前記認定のとおりである。

(2) 証拠(甲六、原告李本人、弁論の全趣旨。)によると、次の各事実が認められる。

(イ) 原告李は、本件事故当時、村上建設株式会社で就労していたところ、同人の作業内容は、土木工事等の肉体労働であつたが、一か月平均二〇日就労し、一日当たり金一万五〇〇〇円の収入を得ていた。

(ロ) 同人の就労先は原告千と同様に変更され、その就労の内容・量にも季節によつて差異があり、それは原告千の場合と全く同じであつた。ただ、原告李の場合は、原告千と異なり、労務提供先及びその期間が皆無ということはなかつた。

(ハ) 原告李の本件治療期間が平成元年一二月一九日から平成二年一二月二八日までであることは、前記認定のとおりであるが、同人は、同年五月頃から就労し始めた。

したがつて、同人の本件休業損害算定の対象となる期間は、平成元年一二月一九日から平成二年四月三〇日までの間の九三日(平成元年一二月は、一三日、平成二年一月ないし四月までは、各月二〇日。)。

しかして、同人は、右期間中収入が全くなかつた。

(ニ) 右認定各事実を総合すると、原告李の本件休業損害は、金一三九万五〇〇〇円となる。

(四) 慰謝料(請求 金一二〇万円) 金一〇〇万円

前記認定の本件全事実関係に基づくと、原告李の本件慰謝料は、金一〇〇万円と認めるのが相当である。

(五) 原告李の本件損害の合計額 金二四三万五七三〇円

(六) 既往症寄与の斟酌による減額

原告李の既往症寄与により、同人の本件損害額を減額するのが相当であること、同減額が全体に対し二〇パーセントが相当であることは、前記認定説示のとおりである。

そこで、右認定説示にしたがい、右損害合計額金二四三万五七三〇円を前記認定の減額割合二〇パーセントによつて減額すると、その後に、原告李が被告に請求し得る本件損害は、金一九四万八五八四円となる。

(七) 弁護士費用 金一九万円

前記認定の本件全事実関係に基づくと、原告李の本件損害としての弁護士費用は、金一九万円と認めるのが相当である。

(八) 原告李の本件損害の総計額 金二一三万八五八四円

第四結論

以上の全認定説示に基づくと、原告らは、被告に対し、原告千において金一八二万四〇〇〇円、原告李において金二一三万八五八四円及びそれぞれに対して本件事故日であることが当事者間に争いのない平成元年一二月一八日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める各権利を有するというべきである。

よつて、原告らの本訴各請求は、右認定の限度で理由があるから、その範囲内でこれらを認容し、その余はいずれも理由がないから、これらを棄却する。

(裁判官 鳥飼英助)

別紙 事故目録

一 日時 平成元年一二月一八日午前七時四五分頃

二 場所 神戸市北区有野町唐櫃四四三一番地先

県道唐櫃・長尾線路上唐櫃トンネル内

三 加害(被告)車 被告運転の普通乗用自動車

四 被害(原告)車 原告千運転・原告李同乗の軽四貨物自動車

五 事故の態様 被告車が、本件事故現場において、停車中の原告車に追突した。

以上

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